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新潟地方裁判所 昭和40年(ヲ)30号 決定 1965年3月22日

申立人 成田五郎

被申立人 小池太市

主文

本件異議申立を棄却する。

異議申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人の本件異議申立の理由は別紙の通りである。

新潟地方裁判所昭和三九年(ケ)第二一号抵当権実行事件の申立債権(債権者小池太市、債務者荒川四郎、抵当権設定者藤塚順治)が、昭和四〇年二月一七日債権者成田五郎(本件申立人)、債務者小池太市(本件被申立人)とする同裁判所昭和四〇年(ヨ)第一八号債権仮差押事件において仮差押決定され、その決定正本が同月一八日第三債務者に、同月二五日右債務者にそれぞれ送達されていることは当裁判所に顕著なところである。

申立人は、右のように競売申立中の債権が仮差押された場合は、それにより被差押債権者は被差押債権についての処分権を失うべきであるから、本件競売手続の続行は停止されるべきである旨主張する。然しながら、債権が仮差押された場合、被差押債権者において、その被差押債権が競売申立中のものであると否とを問わずその処分をすることができなくなること申立人主張の通りであるが、そのことから直ちにその被差押債権に基く競売手続の続行が停止されることになるということはできない。なぜなら、仮差押は将来なされるべき本執行の遂行を保全するために、仮差押目的物の現状を維持することにその目的があると解されるが、その趣旨は結局債務者(被差押債権者)が債権の満足を受けてそれを消滅させること及び第三債務者が現実に支払することをそれぞれ阻止する程度に止まるといわなければならず、未だその段階に達しない限り差押債権者を害することはあり得ないのであるから、債務者(被差押債権者)はその債権を確保するためにいかような方法においてでもそれを行使し得るといわなければならない。そして債権者が不動産競売手続を続行する場合、債権の満足段階に達する時期は不動産売得金の交付又は配当(強制競売)を受けた時と解すべきであるから、結局被差押債権者は右満足段階に達する直前即ち不動産売得金の交付をうける前段階まで競売手続を進行し得るというべきである。従つて、執行裁判所においても、競売申立中の債権が仮差押されたとしてもそのまま競売手続を進行させ、競落代金の納付があつたときは、保管金として管理し(その手続については昭和三七年九月一〇日最高裁規程三号参照)、必要な場合は何時でも売得金の交付をなしうる段階にまで手続を進め得るが、その後は手続を停止して仮差押債権者の採る手続の推移を待つべきであると解するを相当とする。そして仮差押債権者はその後債務名義の執行力ある正体を得たときは、被仮差押債権の転付命令を得て、保管中の売得金から満足を受け得ると考えられるのである。してみれば、未だ右のような段階に達しない現段階において、競売手続続行の停止せられるべきであることを主張して申立てられた本件異議申立は結局未だ理由がないといわなければならない。よつて本件異議申立を棄却し、申立費用については民事訴訟法八九条により申立人の負担とすることとして主文の通り決定する。

(裁判官 渋川満)

別紙

一、右相手方から申立の別紙(別紙の添附なし)不動産に対する御庁昭和三九年(ケ)第二一号不動産競売申立事件について申立の請求債権は昭和四〇年三月二日申立人より御庁にお届の如く仮差押決定により仮差押へされた。

二、よつて仮差押の効力により当然に被差押債権者は被差押債権について処分の権能を失い競売の続行は停止されるべきであるにもかかはらず右右競売事件が続行しているのは不法である。

三、よつて異議申立に及んだ次第である。

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